utopistics

日々のことを。

昼間のデート

‪靴を何足も鏡で合わせるのも、アーケードを手を繋いで歩くのも、古い洋食屋の煮込みハンバーグも、昼間に観光地で待ち合わせるのも、私たちには初めてで、最高のデートだった。私たちはずっと笑っていつまでも話し足りなかった。これが最後だと二人とも分か…

午睡

自転車を押しながら住宅街を進む もう少し先です、そこを右ですと 案内しながら前を歩くひとを 少し背丈を伸ばした影が伴走する ガラガラと門扉を開ける音、チャイム お暑いところすみませんと 年老いた女性が腰を曲げる きれいに手入れされた 深い色の柱 二…

不知火と

どうしたって遠くの方から 光ってくるんだ まっ黒い海のせり出す先と 烏賊漁の船のほろほろの灯と 一時間遅れの朝焼けと 白くけぶった空と海の 境目に浮かぶオレンジの浮子と ざあーっと潮の引いた浜の面と 藤壺は素知らぬ顔で 顔を出したりしまったりして …

ボルタンスキーと死の受容プロセス

ボルタンスキー展に出かけてきた。 彼の作品を見に行くのは二〇〇九年越後妻有(最後の教室)、二〇一〇・二〇十三豊島(心臓音のアーカイブ)以来だ。 国立新美術館のLifetimeは初期のブルース=ナウマンのような、まさに原題どおりに吐きそうな映像から始…

ゆで卵と伯爵

あるところにゆで卵の大好きな伯爵がいらした。 給仕の用意するつるりとしたゆで卵を 毎朝の楽しみにしていたが ある日、給仕は都合で実家の里に帰ってしまった。 伯爵は困り果てたが いつまでもないものを嘆いてもいられない。 料理などしたことがなかった…

梅(2013改・再掲)

裏のお寺の梅が満開にきれいでiPhoneで撮っていたら、 撮ってあげましょう、と 見知らぬ初老の女性に声をかけられ 今年の梅とわたしを撮ってくださった。 わたしは自分の顔が好きではなくて、 一人で写ってる写真があまりない。 「記念になりますからね」と…

放課後

曼珠沙華、赤く伸びる頃 学校の、校庭では 二学期にはいって急に大人びた口ぶりになった 同級生と フットベース階段の踊り場で交わす軽口 手すりに触れる 木のぬめりとした つや

薄雲

台風が夏をかっさらっていって 空のお掃除 てっぺんまでスペースが大きくなり ぽーんと ぴーんと 澄んでいる

秋虫

秋虫の鳴き声文字に起こすこと できるかなリリリリリリリリチチチチチチチチこれが二つ重なった音倍音を文字にすることができなくてくやしい わたしたちの使える言葉は聞き逃した音を たくさん 隠してる

夕方の社員食堂

遅いランチをつつきながら近年の不遇を 嘆きあう要は部署の愚痴の中で 「そうですよ 最近はマニキュアもしなくなっちゃったもの ドキリ。 同僚の意外な一言 。 全然着飾らない人なもので 失礼ながらその台詞と 本人の組み合わせに驚いた。 女の秘密は女だけ…

クマグスクの夜

久しぶりの長い休みを、小豆島で過ごすにあたり 最初の二晩をクマグスクという変わった名前の宿に決めた。 島をさんざん回って夜分に到着する。遅くなりすみません。 「こんばんは。二泊でしたね。 では二泊分の、お家賃を納めていただきます。」 これから二…

志村ふくみさん

NHKプロフェッショナル、志村ふくみさんの回を観る。 最近わたしは涙もろいが、冥界からいのちを引き上げるような、染めの作業を見、ふたたび涙があふれた。

白い器がほしい。 つるりとしているけど、つるつるではない器。 手で、表面を整える。