utopistics

日々のことを。

午睡

自転車を押しながら住宅街を進む

もう少し先です、そこを右ですと

案内しながら前を歩くひとを

少し背丈を伸ばした影が伴走する

ガラガラと門扉を開ける音、チャイム

お暑いところすみませんと

年老いた女性が腰を曲げる

きれいに手入れされた 深い色の柱

二つの声のつぎつぎのおしゃべりを

ねこは丸くなって聞いている

かつて  あった景色は

かつて  失われたのだろう

畳のひだまりを ねこはすり抜け

親子は 顔を合わせないまま

笑みをこぼす

老婆は揃いのティーカップに紅茶を淹れる

いつか 閉じ込めた景色は

いつも ここにあったように

いつも 多分ずっとあったことを

親子が笑う

ねこはまた横をくぐり

窓辺に丸くなって午睡する

ありがとうございました

深々と頭を下げる人に会釈し

そこの角を左に曲がる

ずっと前は雑木林でした この辺り

指し示しながら 歩くひとを

さっきより長くなった影が伴走している